• 素粒子チタン光触媒「REDOX」

環境庁ホームページの環境技術解説に「光触媒」が紹介されています。
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=39

光触媒の原理と光触媒による有害物質の分解メカニズムの図は、次のように記されていました。(2023年6月30日現在この記事は消えてしまっています。)

1)光触媒の原理

電子が抜け出た穴は正孔(ホール)(h+で表示)と呼ばれ、プラスの電荷を帯びている。正孔は強い酸化力をもち、水中にあるOH(水酸化物イオン)などから電子を奪う。電子を奪われたOHは非常に不安定な状態のOHラジカルになる。OHラジカルは強力な酸化力を持つ。一方飛び出した電子は、O2と結合して活性酸素(O2)を発生させる。これらの活性酸素やラジカルによって、様々な化学物質が分解され、最終的には二酸化炭素や水などの無害な物質が生成される。このように、酸化チタンを用いた光触媒は、半導体である酸化チタンのバンドギャップエネルギーが紫外線のエネルギーに対応していることを基礎としている。

→酸化チタン光触媒はこのような反応をしません!

「OHラジカル」は重要ではない。

サトシンの光触媒」(北海道大学・佐藤しんり氏)の
「光触媒入門:活性酸素=ヒドロキシラジカル説は誤り」という記事に詳しい解説があります。

酸化チタン光触媒が実用化されて以来、一般向けの光触媒の解説書がたくさん出版されました。その中には、図8のような光触媒の仕組みが書かれている本があります。電子は酸素と反応してスーパーオキシドラジカルをつくり、正孔は水と反応してヒドロキシル(OH)ラジカルをつくるというのです。

ところが、酸化チタンによる光酸化反応は、水が無くても起こります。また、水を加えても一般に反応は促進されません。したがって、OHラジカルは必要がないわけです。
これだけの実験事実からしても、図8の仕組みはおかしいことがわかります。さらに、もしOHラジカルができたとしても、酸化チタンに吸着したOHラジカルの酸化力は、吸着していないときより著しく下がることがわかっています。
活性酸素は、フリーな状態よりも吸着した方がエネルギーが下がるので、吸着した活性酸素は、フリーな状態より酸化力が下がります。OHラジカルやスーパーオキシドラジカルは、生体内ではたいへん酸化力が強いとされていますが、生体外の反応では、それほど酸化力は強くありません。生体内には酸化されやすい物質が多いので、弱い活性酸素でも酸化が起こるために、酸化力が強いと錯覚されているのです。実際、触媒反応では、これらの活性酸素は重要視されていません。
OHラジカルやスーパーオキシドラジカルの酸化力を簡単な実験で確かめることができます。OHラジカルはフェントン反応によって、またスーパーオキシドラジカルは過酸化カリウム(KO2)と水との反応によってつくることができます。このようにしてつくったOHラジカルやスーパーオキシドラジカルは一酸化炭素を酸化できません。酸化チタン光触媒は、一酸化炭素を酸化できますから、これらの活性酸素よりも強力な活性酸素ができていることになります。実験についてはこちらを見て下さい。
図8の光触媒の仕組みは今や通説になっているようですが、何らの根拠もないものです。

OHラジカルは「強力」ではない。

また、同氏は「光触媒研究余談―言いたい放題―」という記事で、次のように述べています。

OHラジカル信仰

最近の光触媒の一般向け解説本やインターネットの光触媒のページに酸化チタンの光酸化力を説明する、図2のようなメカニズムを見かける。このメカニズムを反応式で書くと

O2 + e → O2
H2O + h+ → ・OH + H+

となる。O2はスーパーオキシドイオン、・OHはヒドロキシ(OH)ラジカルといわれるものであり、強力な酸化力を持つ活性酸素種であると一部の人たちは信じている。
しかしながら、酸化チタンは酸素さえあれば水がなくても強い光酸化力を示すから、OHラジカルはなくてもよいことになる。上のメカニズムでは水がないときに正孔(h+)が反応する相手がいない。この変なメカニズムが見られるようになったのは、1995年に書かれたある総説以来のことだ。それ以前はこれほど単純なメカニズムを書いた光触媒の総説はない。
水がないときには正孔はO2と反応して吸着酸素原子ができ、さらに吸着酸素原子は電子と反応してOになると考えられている。

O2 + h+ → 2O(a)
O(a) + e → O(a)

この場合の電子は光誘起電子とは限らず触媒からの電子移行もある。酸素原子は通常の触媒反応では最も酸化力の強い活性酸素種であり、液体窒素温度(77K)でも酸化力がある。もちろん、O2やOHラジカルより酸化力が強い。例えば、O2やOHラジカルは一酸化炭素を酸化できないが酸素原子はできる。OはESRによって検出されているし、酸化チタン上で酸素が光解離して酸素原子になっていることは、酸素同位体交換反応からもわかる。
一方、ESRによってOHラジカルは直接的には検出されず、スピントラッピング剤を使った間接法でしか検出されていない。ところがスピントラッピング剤は有機物であるから、酸素原子ができれば酸化されてしまう。そのとき、酸素原子が水素を引き抜けばOHラジカルができる。したがって、直接法で検出しない限りOHラジカルの存在を証明したことにはならない。活性酸素種は固体表面に吸着すると反応性が変わる。また、OHラジカルはTiO2に吸着すると、著しく酸化力が下がることがわかっている。
OHラジカルはフェントン反応

H2O2 + Fe2+ → Fe3+ + HO + ・OH

によって簡単につくることができる。こうしてつくったOHラジカルを一酸化炭素に触れさせても、またそこに酸化チタンを共存させても、反応は起こらない。すなわち、OHラジカルは一酸化炭素を酸化できないから、酸素原子より酸化力が弱いことがわかる。
これほどOHラジカルに対するマイナス材料がありながら、OHラジカルが最も酸化力の高い活性酸素であると主張し続ける人たちがいる。これはもう宗教的な信仰というよりほかない。

酸化チタン光触媒に「水」はいらない。

さらに、同氏「光触媒講義ノート」の「H2Oによる光還元と光酸化反応」より。

金属助触媒がついている半導体上でCOなど無機物のH2Oによる光還元が起こらないことはすでに述べた。H2Oによる光還元と光酸化は同時に起こるか、光還元のときにはO2の生成、光酸化の時にはH2の生成がなければならない。TiO2だけを光触媒としてH2Oによる還元や酸化が起こったという報告はあるが、化学量論が成り立つ実験結果は一つもない。微粒子TiO2でH2Oによるオレフィンの光水素化が起こるという報告がある。この反応は表面水酸基が多ければH2Oがなくても水酸基の水素による水素化が起こることがある。しかし、O2もCO2も生成しない。このような反応は光触媒を含む不均化反応の一種であると考えられ、光触媒反応ではない。一般に有機物の存在下で微粒子TiO2を光照射すると、H2Oが共存していてもTiO2自身の還元が起こるし、中間生成物の表面への蓄積が起こる。したがって、こういう反応は触媒的(catalytic)とは言えない。

O2による光酸化反応にH2Oが影響を与えるかどうかがしばしば議論になる。H2OからOHラジカルができてこれが酸化反応に関与するという説である。われわれの実験結果ではTiO2上のO2によるアルカン光酸化反応に水蒸気を加えると反応速度はかえって減少する。これは反応物の吸着が水の吸着によって阻害されるためである。酸素同位体を使った実験でもOHラジカルが関与しているという証拠はなにも得られていない。均一系反応ではOHラジカルは活性かもしれないが、固体表面では活性種はまず表面に吸着するはずであるから、これが強い酸化活性種であり得るかどうか疑わしい。また、表面水酸基からOHラジカルができるという説も実験的な証拠がない。

酸化チタン単独でも本多・藤嶋効果があると書いてある本がありますが、間違っています。
半導体光電極セルで対極の白金がなければ本多・藤嶋効果が起こらないように、金属のついていない酸化チタンでは水の光分解あるいは水の光酸化は起こりません。したがって、酸化チタンを単独で用いている光触媒を、”本多・藤嶋効果をルーツとする”とは言えません。
酸化チタン単独の光触媒作用の仕組みは実用化こそされませんでしたが、本多・藤嶋効果発見以前から解明されています。