• 素粒子チタン光触媒「REDOX」

光触媒とは

光触媒反応とは広義で、
『光を照射したとき起こる反応において、光を吸収する物質が反応前後で変化しない場合に光触媒反応と呼ぶ』
(大谷文章『光触媒標準研究法』東京図書、2005年、38頁より引用)と説明される反応です。

この光触媒反応を起こす物質のことを「光触媒」と言い、光を吸収し反応前後で変化しない物質は今のところ「酸化チタンのみ」です。
光を吸収する物質は他にもありますが、どれも反応前後で変化してしまうのです。

では「酸化チタン」とは、どのような物質なのでしょう。

酸化チタンとは

酸化チタンは白色顔料として塗料、食品添加物、化粧品などに用いられています。

野外に設置された白い看板やガードレールで手が白くなった経験はありませんか?
それはチョーキングという現象で、白色塗料に含まれる酸化チタンの光触媒作用により、酸化チタンが塗装表面に露出して白いチョークの粉のようになってしまうからです。

ガードレールが白いままであるのも、酸化チタンの光触媒効果で汚れがつきにくいためです。

下の画像の看板では文字がところどころ剥がれています。
白色の部分に含まれる酸化チタンの光触媒効果で、他の塗料が剥離してしまうのです。

このように、酸化チタンの光触媒反応は、身近なところでも確認できます。

酸化チタン光触媒反応とは

酸化チタン単独の光触媒反応とは、次のような反応です。

  1. 酸素はO2として吸着する。この時のマイナス電荷は酸化チタンから与えられる。(O2+ e→ O2
  2. O2は酸化チタンにできた正孔(h+)と反応して原子状酸素(O)に解離する。(O2+ h →2O)
  3. 原子状酸素は電子(e-)と反応してOとなる。(O+ e → O
  4. 原子状酸素はまた、O2とも反応してO3となる。(O +O2 → O3

このようにして発生する活性酸素種のうち、最も反応性が高いのは原子状酸(O)です。

  • 原子状酸素(O)はマイナス200度Cに近い低温でも反応性がある。
  • O3は原子状酸素よりやや反応性が低い。
  • Oの反応性はかなり低い。

ということが知られています。

現代の常識・非常識

消えた原子状酸素

しかし、1995年に光触媒の実用化がはじまって以降、上とは異なる説明が行われるようになります。

  1. 酸化チタンに光があたって電子と正孔ができ、電子が吸着酸素と反応してスーパーオキシドラジカルをつくる(O2+ e→ O2)。
  2. 正孔は水(水蒸気)と反応してヒドロキシラジカルをつくる(H2O+h→・OH+H)。

と、酸化チタン光触媒によってできる活性酸素はヒドロキシラジカル(・OH)とスーパーオキシドラジカル(O)とされ、強力な酸化反応を起こす原子状酸素(O)の存在が忘れ去られてしまうのです。

この仕組みでは、水がなければ(正孔が反応する相手がないため)酸化反応が進みません。
(めったに濡れることがない)
室内の壁や床などに施工した場合、期待される効果がほとんど得られないということを言っているのに等しいのです。

もちろん、実際の酸化チタンによる光触媒反応は、水を必要とせず、水があっても反応は促進されません。

光触媒を施工するのは、たとえ屋外であったとしても空気に接することの方が多いでしょう。
それなのに、水中でのみ発生する(空気中で発生しない)活性酸素種であるヒドロキシラジカル(・OH)の研究ばかりが行われているのはなぜでしょうか。
どうして、水がないと反応が促進されないような仕組みが考え出されてしまったのか……。

水を分解?

また、『酸化チタンは、光エネルギーが当たると電子が活発になり、水を水素と酸素に分解する強い酸化作用を起こします』と説明されることもあります。

しかし、酸化チタン自体は疎水性であり、水を分解することはできません

このような説明が行われるのは、1972年に日本化学会の英文誌「ネイチャー」に掲載された『ホンダ・フジシマ効果』の論文が、光触媒のルーツとされているためだと考えられます。

ただ、この論文で示されているのは、光エネルギー(紫外線)に加え、電気エネルギー(起電流)や化学エネルギー(白金・酸化チタン)を供給する光電気化学反応であって、光触媒反応ではありません

実験していただくとわかりますが、水中で酸化チタンに紫外線を照射しても、何の反応も起こりません。

むしろ水があると酸素を原子状酸素に(O)に変えることができず、強力な酸化作用を発揮することができなくなってしまうのです。

ドーピング物質の弊害

さらに、水と酸化チタンと紫外線でゴキブリを分解したという衝撃的な報告もあるようです。
しかし、酸化チタン光触媒に大量の物質を処理する力はありません。
酸化チタン光触媒にできるのは、空気中の酸素を活性酸素に変えて、空気中の汚染因子等を酸化分解することだけです。

それだけであるからこその有用性と持続性があるのですが、即効性に欠けるなどの理由から、光触媒に酸化チタン以外のものをドープする(不純物を混ぜる)ということがよく行われています。

ドーピング物質としては、金、銀、銅、鉄、亜鉛、アルミ、ニッケル、スズ、カルシウム、シリカ、リン、樹脂、セラミック、アパタイトなどがあり、酸化チタンを使っていないにも関わらず「光触媒」「酸化還元反応」をうたう製品も存在します(アンモニウム塩、ダイヤモンド、硫酸、珪素、天然鉱石、etc)。

以上のような物質によって起こる反応は、一時的なものです。
ドーピング物質による有機物等の吸着作用はいずれ飽和状態となり(酸化チタン以外は光触媒ではない)、酸化チタンが触媒毒に覆われることで、次第に光触媒機能も働かなくなってしまいます。

(補足)光触媒の歴史を遡ると

光触媒という用語が最初に使われたのは1915年。
飯盛里安(いいもり さとやす)東京大学理学博士による、東京化学会誌の論文『主反応系と光との間に立ちて活動する物質を称して光触媒と唱え、その作用を光触媒作用と名づく』です。
光を受けたときに触媒のように働く物質、酸化チタンが光酸化反応を起こすことは、この時点で既に知られていました。

1950年代には光触媒は触媒化学として研究されています。
雑誌『光化学とその応用』(化学同人『化学』増刊20号、1965年)に掲載された、東京大学薬学部教授管孝男(かん たかお)氏による『光触媒作用の速度と機構』という総説で取り上げられている光触媒反応は、現代の知識とさして変わらず、酸素の光吸着や光脱離、光酸化の反応機構(仕組み)、酸素の吸着状態、原子状活性酸素にまで及んでいます。
しかし、酸化チタン光触媒は効率(量子収率)が非常に低く、大量の物質を一度に処理することに不向きであることから、応用研究は進みませんでした。

1970年代に『ホンダ・フジシマ効果』が発表されたことで、酸化チタンを使った水の電気分解が一気に注目され、光電気化学の分野で石油に変わるエネルギーとしての応用研究が行われますが、やはりその効率の悪さから一旦研究は下火に。

1990年代に入ってようやく光酸化反応の実用化研究が盛んになり、現在のような形での実用化が進むきっかけとなりました。が、これ以降の酸化チタン光触媒は「OH(ヒドロキシ)ラジカル」「水による反応促進」「超親水性で防汚」など、1965年時点においてすでに発見されていた知見とは真逆の原理を打ち立てていく、というおかしな迷走をはじめてしまうのです。